This site uses cookies to improve the user experience. If you continue to browse, you consent to the use of cookies on this site. Accept

熊野古道は山だけじゃない 世界遺産熊野川「川の参詣道」をゆったり下る三反帆ツアー

Update:

Kiho Town

熊野古道には「川の参詣道」とよばれるルートがあるのをご存じでしょうか?
三重県と和歌山県の境を流れる熊野川。この熊野川は「川の参詣道」として、世界で初めて川が世界遺産に登録されました。平安・鎌倉時代の上皇や貴族は、熊野本宮大社を参拝後に熊野川を川舟で下り、熊野速玉大社・熊野那智大社を目指しました。

山中の石畳を歩く熊野古道ツアーとは一味違う、熊野川をゆったり下る三反帆ツアーをご紹介します!


そんなツアーを体験できるのは、三重県最南端の紀宝町にある「熊野川体感塾」。今回は小学生の娘と2人で参加してきました。2人とも乗船前からワクワクしています。


熊野川沿いの細く曲がりくねった道を進み、「熊野川体感塾」の事務所に着くと塾長の谷上嘉一(たにがみ よしかず)さん、船頭の北原潤希(きたはら じゅんき)さんが迎えてくれました。塾長の谷上さんは熊野川流域で唯一の船大工です。


乗船前に北原さんが昔の写真を見せながら、平安・鎌倉時代からの熊野川や川舟の歴史、熊野川周辺に住む人々の生活などについて説明してくれました。当時、川舟は人々の往来や木材、炭、石炭、生活物資などの運搬にも利用され、この地域に住む人々の生活に欠かせませんでした。しかし、陸上交通の発達とともに、昭和30年頃に川舟はその役割を終えたそうです。


説明が終わった後に少し工房を見せていただきました。工房には熊野速玉大社の御船祭(みふねまつり)で使用した早船(はやぶね)があり、この早船の修理も谷上さんが手掛けているそうです。


ライフジャケットを着用し、三度笠をかぶっていざ三反帆へ!
熊野川体感塾の目の前が熊野川なので、乗船場所までは歩いてすぐの距離です。
今回はオーストラリアやニュージーランドなど海外の方たちと、合計6名での乗船になります。最近は海外からのお客さんが増えているそうで、国際的な注目度の高さがうかがえますね。


三反帆は全長8.6m、幅約1.6mの船体に三反帆のシンボルである3枚の帆を5mの帆柱に掲げ風をとらえて進みます。熊野川の川舟は、流域で調達したスギ・ヒノキ・ケヤキ・カシの4種類から作られており、そのうちの80%は樹齢100年以上のスギでできています。川舟は川ごとに造りが異なるそうです。熊野川の川舟は①船首が大きく反り返っている、②船底に斜めの部分がある、③船底の反りがある、といった特徴があります。熊野川の激しい流れや数センチの水深などにも対応できる、熊野川オリジナルの川舟が今も引き継がれており、たくさんの人にその魅力を伝えているんですね。


乗船した人にはお土産として川舟の材料であるスギを使った木札がもらえます。この木札を持ってみると分かるのですが、とても軽くて驚きました。そしてほんのりスギのいい香りがします。


いよいよ出発です!近くで見ると川の流れが速く感じられて少し不安になりましたが、流れに乗ってしまえばとても心地よく、川舟はどんどん進んでいきます。
熊野川は本来青く澄んだ色をしていますが、たくさん雨が降った後やダムの放流があった後は川が濁ってしまうそうです。この日も数日前に降った雨の影響で残念ながら濁っていました。


ちょうどこのあたりは新宮市にある神倉神社の裏側になり、昔ながらの原生林が残っています。石だらけのところに木が生えていて、新たに木を植えることができなかったため、結果的に原生林が今も残っているそうです。

 

畳石(たたみいし)


畳を斜めに立て掛けているように見える「畳石」。目の前を通るととても大きく、自然の造形に圧倒されます。


このあたりからエンジンを止め、帆を張って川の流れと風の力でゆっくりと進んでいきます。エンジン音がなくなると辺りはとても静かで、ゆったりとした時間の流れを感じます。鳥が羽ばたく音や水音が聞こえてとても癒されます。この日はとてもいい天気だったので、私は少し眠くなってしまいました。乗船前は緊張していた娘も慣れてきたらしく、鳥を見つけたり、時折飛び跳ねる魚にびっくりしたり楽しそうにしていました。

 

乙基の渡し(おとものわたし)


熊野本宮大社に参拝した上皇や貴族たちは、熊野川を川舟で熊野速玉大社へと下りましたが、庶民は本宮に近い「楊枝(ようじ)の渡し」で三重県側に渡り、新宮の手前にある「乙基(おとも)の渡し」まで、川端街道(川丈街道)という熊野川の崖沿いの道を歩いたそうです。きっと川舟で下っている人たちを見ると羨ましかったでしょうね。当時の上皇や貴族たちが体験した贅沢な時間をぜひ味わってみてください。

 

御船島(みふねじま)


次に見えてきたのは熊野速玉大社の御船祭(みふねまつり)で有名な御船島です。この島は紀宝町に位置し、熊野速玉大社の境内の一部となっています。祭りで最大の見どころは、9隻の早船がスタート地点から約1.6㎞上流にあるこの島を3周する早船競漕(はやぶねきょうそう)です。私たちも川舟で島をくるりと一周し、さらに下流を目指します。

 

亀島(かめじま)


亀の形をした岩島。北原さんから「なんの動物に見える?」と聞かれ、娘は「ワニ」と答えていました。みなさんは何に見えますか?

 

丹鶴城跡(たんかくじょうあと)


熊野川河口の南岸の小高い丹鶴山に築かれた丹鶴城。現在は江戸時代の石垣のみが残っているそうです。天守閣跡は公園になっていて、春になると桜がきれいに咲き、夜はライトアップされ夜桜も楽しめますよ。
熊野川に面したところには船着き場があり、その近くでは炭納屋群が発見されているそうです。おそらく上流から川舟で運ばれてきた備長炭を大量に集積し、江戸へ送るための場所だったそうです。少し下流へ行けば太平洋へ出られるこの場所は、とても効率のいい場所だったのでしょうね。


そして珍しいのが城跡の下をJR紀勢本線が通っていることです!よく城跡の下にトンネルを掘ったな、と感心してしまいますよね。


熊野川の河口が見えてきたので、ここから今度は上流へ戻ります。
当時、午前は山から吹いてくる風で川を下り、午後は海から吹いてくる風を利用し、浅瀬で棹(さお)を使いながら上流に向かったそうです。エンジンを積んでいない当時の川舟が川の流れに逆らいながら上っていくなんて、とても大変そうですよね。

 

権現川原(ごんげんがわら)


熊野参詣の川舟の乗降場所といわれています。堤防奥にある生い茂った木々の中に熊野速玉大社があります。このツアーの参加者は出発地点まで戻らず、このまま熊野速玉大社へ行くためにここで舟を降りることができます。一緒に乗船した海外の方たちともここでお別れでした。みなさん乗船中に質問したり、写真を撮ったりととても楽しそうでした。別れ際にお互い手を振り合い、私たちは出発地点へと戻りました。

「川の参詣道」は山中を歩く熊野古道とは全く違うとても贅沢な体験でした。そして次の日に筋肉痛になる心配はありません(笑)

旅行に来られた人はもちろんですが、この地域に住んでいる人たちにもおすすめのツアーでした。見慣れた景色が視点を変えるだけでいつもと違うように感じられ、また新たな発見ができるかもしれませんよ。
ぜひ一度ゆったりとした三反帆ツアーを体験してみてください!
この日は川が濁っていましたが、本来の青く澄んだ熊野川が見られるといいですね!

●熊野川体感塾
 熊野川 川舟乗船ツアー

住所 三重県南牟婁郡紀宝町北檜杖203
電話番号 0735-21-0314
川舟運航日 3月~12月中旬(予約制)
集合場所 熊野川体感塾事務所(紀宝町北檜杖203)
集合時刻(相談可) 午前の部10時   午後の部 13時
公式HP https://www.za.ztv.ne.jp/w58yd3jb/
料金 1名:9,000円、2名:1名あたり4,500円
3名以上:1名あたり3,500円(小学生以下の子供は2,500円)
所要時間 約2時間(乗船前の説明込)
最大催行人員 1名
1隻の最大乗船数 8名
1回の最大乗客数 30名

※傷害保険加入済みです。(料金に含まれています)
※悪天候、河川状況によりコースを変更または欠航することがあります。
※ライフジャケットの着用が必須です(無料貸出あり)。
※今回の記事にあったとおり他のお客様と乗り合いになる場合があります。
※貸し切り船の対応も可能とのことです。

(ライター:向井Kさん)